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活動

留学

(1) 朝海廣子(2006年入局)

私は成育での循環器研修終了後にオーストラリアとカナダへ合計4年間臨床留学をしていました。メルボルンのRoyal Children’s Hospital(RCH)では前半は一般小児循環器フェロー、後半は不整脈フェローとしてトレーニングを積みました。循環器のなかのサブスペシャリティーを決められずに悩んでいたところ不整脈フェローをやらないかと上司に声を掛けて頂きチャレンジしてみることになりました。始めてみると不整脈の世界は知らないことだらけで今までの小児循環器研修はなんだったのだろう?と思うくらい毎日発見の連続でした。不整脈診療は遺伝性不整脈疾患の慢性管理から不整脈発作の急性期医療、アブレーションやデバイス植え込みといった侵襲的検査や治療まで多岐に渡りますが、いずれも日本ではほとんど経験しなかった疾患群でした。1年半の研修ではとても不十分と感じ、さらに経験を積むためにカナダへ移動しトロントのHospital for Sick Childrenで一年半不整脈フェローとして勤務しました。シックキッズはRCHよりもさらに規模が大きく、不整脈チームだけでスタッフが4名おり、業務はほぼ100%不整脈でした。

欧米諸国では一般小児循環器を学んだ後にサブスペシャリティーとしてインターベンション、心不全・心移植、イメージング(エコーやMRI)、不整脈等の研修をすることが一般的ですが、日本では小児循環器の中のサブスペシャリティー研修は皆無です。今後日本でも、臨床の第一線で活躍し続けるためにはサブスペシャリティーの道を究めることがとても重要だと思います。海外の医療現場を見ることはカルチャーショックの連続です。今まで「当たり前のこと」として身についてしまっていた診療が根本から覆されます。そして何よりも大切なのは留学先での出会い!海外の大きな施設は世界中から人が集まっていますが、そこで出会う人たちとのつながりはかけがえのないものです。こうしたネットワークは帰国後も大きな財産となり、地球の裏側からでも難しい症例の相談が出来ますし、多施設共同研究に参加したりと専門領域の最先端に居続けることが可能です。

公私共に刺激的な毎日が好きな方は是非留学しましょう!楽しいですよ。

(2) 田中優(2010年入局)

「徳島に行って基礎的な免疫の勉強をしてみないか?」

小児科疾患、循環器疾患と免疫系との関わりに興味を持って大学院に入りましたが、平田陽一郎先生のこの一言がきっかけとなり、徳島大学免疫学発生学分野で基礎免疫学の勉強をすることになりました。その研究室は胸腺、中でもT細胞の教育に携わる胸腺上皮細胞の発生や機能にフォーカスを当てており、当初は知識や経験が全くない中研究を進めるのはとても困難でしたが、徐々に胸腺上皮細胞の機能のユニークさに魅了されました。

徳島に行って1年半が過ぎた頃、今度はラボの主催者が留学中の古巣であったアメリカの国立衛生研究所(National Institutes of Health)に新たにラボを構えることになり、その立ち上げに誘って頂きました。ほぼ何もないところに機器を購入するところから始めるのは至極大変でした、各種実験の整備、データの整理、複数のラボとの共同のミーティングでの発表など、新鮮で刺激的な毎日を送ることができました。ブランチ(近接した複数のラボの共同体)には世界各国から集まった優れた研究者、熱意ある若手研究者および学生が多数いて、彼らとの交流は滞在中の大きな財産となりました。

人生万事塞翁が馬を地で行く大学院生活となりましたが、関係各位の皆様のおかげで楽しく過ごすことができ、この場を借りて篤く御礼申し上げます。現在は大学に戻して頂いて病院勤務の日々です。循環器班の皆様には大変ご迷惑をおかけしていますが、ブランクの長い私を暖かく迎えてもらって感謝の言葉もありません。大学院で学んだのは遠く離れた分野のことではありますが、今後何とかしてこの経験を活かしたいと思っています。今後ともよろしくお願い致します。

(3) 田村麻由子(2012年入局)

私は2014年に博士課程に進学し、在学中の2016年に研究者の夫とともに子供を連れスイス・ローザンヌへ留学しました。そして、連邦工科大学にあるNestle Institute of Health Scienceの研究室で、2型糖尿病の治療標的のリン酸化酵素について研究しました。東大では主に分子遺伝学的な研究をしていましたが、ここでは生化学的な酵素反応の解析にどっぷりとつかることができ、異なる問題意識やアプローチを学ぶことはとても刺激的で、研究に限らず重要なことだと感じました。

また、非常に国際的で多様なバックグラウンドを持つ人たちと共に働いたり、友人になれたりしたこともまた貴重な経験となっています。私は日本にいる間は海外留学のハードルをとても高く感じていましたが、こちらに来て、自分の技能をもって国境を越えて学び働くことの意義をより深く感じるようになりました。そして、互いに大きな違いが存在する中でいかに自己表現をし、自分の出来ることやなすべきことを考え実現してゆくのかということを、第二子を出産し引き続きローザンヌで生活するなかでも、日々学んでいます。

(4) 磯部知弥(2018年入局)

私は3年間の後期研修終了後、2021年からUniversity of CambridgeのPhDプログラムに進学し、Cambridge Stem Cell Instituteで造血発生と白血病発生のメカニズムについて研究しています。ラボメンバーはwet labとbioinformaticianに大きく分かれ、日々議論しながらチームで進めていく環境で、私はbioinformaticianとしてwet labのシニアポスドクと協力しながらプロジェクトを進めています。

研究環境において日本と最も異なる点は、母国人(イギリス人)があまりいないと感じるほどの国籍の多様さです。加えてラボ間の垣根も低く、様々な興味を持って世界中から集まる学生・若手研究者達と研究やキャリアについて議論できる環境は非常に刺激的です。ケンブリッジという場所も緑が多く、かといって田舎すぎるわけでもなく、妻と子供二人を連れての留学に住みやすい環境で、非常に充実した留学生活を送れています。

もともと医学部在学中から、東大小児科血液班で滝田順子先生(現・京都大学小児科教授)のもと、小児がんの治療最適化を目標とした網羅的ゲノム解析の手法を勉強していましたが、初期研修(東大小児科プログラム)、後期研修の間も可能なペースで研究を継続することができ、PhD留学という選択肢を取れたのは、研究室が併設されている大学病院ならではであり、様々なキャリアプランをサポートしてくれる東大小児科ならではの強みだと思います。

まだまだ駆出しですが、同じように東大小児科から世界へ挑戦したい学生、研修医の方がいれば、是非ご相談ください。

(5) 玉光綾香(2018年入局)

小児科専門研修後に渡英し、ロンドン大学衛生熱帯医学大学院に進学しました。
具体的な修学内容としては、統計、疫学、社会医学、医療経済、医療政策等、分野横断的な講義や実習を通して公衆衛生学の基礎を習得するとともに、並行して各自の研究を進めます。私は小児呼吸器感染症に対する予防接種等の政策効果の予測をテーマとし、先生方のご指導の下で取り組んでいます。

特に公衆衛生学分野で留学する利点の一つとして感じることは、世界各国の保健医療システムや臨床現場の実情について、相互的な学びが得られることです。例えば私の場合は、イギリスの保健政策、特に新型コロナウイルス感染症対策や政策決定のプロセス等について、講義やセミナーを通し学ぶ機会が多くありますが、その中では、外から見た自国の特徴にも気づかされます。一方、他国の医療や社会システムに関して触れる機会にも恵まれており、例えばロンドン大学にはアフリカ諸国から、政府の奨学生をはじめ多数の学生が在籍していますが、気軽に質問できる同級生との会話は刺激に溢れています。
もちろん、日本の保健医療が優れている点は多く、自分自身の小児科臨床経験を共有することも大いに歓迎されます。国を超えてお互いの知識・経験を共有する機会が豊富であることは、留学の醍醐味の一つであると思いますが、自国の保健システムや専門科診療について説明するためにも、しっかりした臨床経験を積むことの大切さを感じます。振り返って、東大小児科での専門研修は、大学病院や関連病院での研修を通し、日本の小児科診療・母子保健について幅広い知識と経験を得ることができるプログラムだと実感しています。

末筆とはなりますが、コロナ禍にも関わらず快く留学に送り出してくださった皆様に、この場を借りて厚く御礼申し上げます。今後ともご指導ご鞭撻のほど、よろしくお願い申し上げます。