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小児の血液疾患・小児がんについて

免疫性血小板減少症とその治療について

この文書は「免疫性血小板減少症(ITP)」についての一般的な内容と、保護者の方からいただくことの多い質問について説明したものです。あくまでも病気についての一般的な内容ですので、ご不明な点については、遠慮なく担当医に質問をしてください。

1.免疫性血小板減少症とはどのような病気ですか?

免疫性血小板減少症は、免疫性血小板減少性紫斑病、または特発性血小板減少性紫斑病という名前で呼ばれることもある病気です。どの呼び方でも、省略してITPと呼ばれます。体の中で作られた「抗体」が、血小板を壊してしまい、血小板の数が少なくなってしまう病気です。

血小板数の基準値は15万~40万ぐらいですが、ITPを発症すると、多くの場合は5万以下になり、1万以下になっていることもしばしばあります。

もともと、「抗体」はウイルスなどの感染症にかかった時に、原因になるばい菌を倒すために作られる免疫力のひとつです。本来は、抗体はばい菌だけを倒すものですが、抗体が血小板も壊してしまい血小板が少なくなる病気がITPです。

2.ITPになるとどのような症状がでますか?

ITPになると、血小板が少なくなります。血小板は血を止める働きをしていますので、血小板が少なくなると血が止まりにくくなり、「鼻血が止まらない」「皮膚に内出血によるあざができる(紫斑といいます)」「歯肉から出血する」などの症状がでることがあります。

症状がなく、他の理由で行った採血で偶然発見されることもあります。

3.ITPにはどのような治療を行いますか?

小児のITPは70-90%が半年以内に自然に血小板が回復します(7. 慢性ITPとはなんですか?」も参照してください)。そのため、血小板の数がある程度保たれている場合は、特に治療を行わずに経過を見ることもあります。しかし、血小板が極端に少ない場合は、大量に出血する危険性や、頭蓋内出血(脳出血)などの重篤な出血をおこすことがあるため、治療を行って血小板を早めに回復させる必要があります。一般的に、治療を行ったほうがいいとされる目安は「血小板の数が2万以下」または「口の中などの粘膜に出血がある」です。

最もよく用いられている治療薬はガンマグロブリン製剤とステロイド剤です。どちらも、抗体によって血小板が壊されるのを防ぐことによって、血小板の数を増やす効果があります。

ガンマグロブリン製剤のほうが、治療の効果が表れるのがやや速いことがわかっていますので、出血症状がある場合や血小板数が著しく低い場合にはガンマグロブリン製剤を使用するのが一般的です。効果が不十分な場合や、効果が一時的にしかみられなかった場合はステロイド剤を使用します(「5. 他に考えられる病気はありますか?」も参照してください)。

ITP以外の原因によって血小板が少ない場合には血小板の輸血が有効ですが、ITPに対して血小板輸血を行っても、抗体で壊されてしまい血小板数がほとんど上昇しないため、通常は血小板輸血は行われず、重篤な出血を起こした場合などに限定されます。

4.治療の副作用はありますか?

ガンマグロブリン製剤は血液製剤の一つです。献血から作られているため、製剤に何らかの感染症の原因となる病原体が混入している可能性が否定できません。しかし、肝炎ウイルスやHIVなどの病原体については精密な検査が行われ、かつ、ガンマグロブリン製剤についてはウイルスを不活化する処理が行われているので、製剤を介してこれらの感染が起こることは極めてまれと考えられています。

血液製剤はアレルギー反応が起こりやすいことが知られています。具体的には、じんましんがでたり、熱がでたりします。ひどいアレルギー反応が起こると、体の循環が悪くなる(アナフィラキシー反応)こともあります。アレルギー反応はガンマグロブリンの投与直後に起こることがほとんどであり、投与開始時は特に慎重に様子をみます。その他の副作用として、ガンマグロブリンの投与後に無菌性髄膜炎が起こることがあります。頭痛や吐き気などの症状がでることがありますが、ほとんどの場合で自然に回復します。また、ガンマグロブリンを使用した場合、3-6か月は生ワクチンによる予防接種(MRワクチンなど)は避ける必要があります。

一方、ステロイド剤は短期間の使用では重篤な副作用は限られていますが、長期に投与すると血圧が高くなる、食欲が増える、肥満、糖尿病、骨がもろくなる、感染症をおこしやすくなる、感情の起伏が強くなる、などの症状が出ることがあります。ただし、通常はこれらの副作用は投与量が少なくなれば改善しますし、投与が終われば回復することがほとんどです。

5.他の病気の可能性はありますか?

血液検査の結果やこれまでの経過、お子さんの年齢などから、ITPの可能性が最も高いと考えられますが、以下のような場合には、ITP以外の血液の病気などによって血小板が減っている可能性を考え、骨髄検査を行うことがあります。

骨髄検査とは、血液を作る工場である骨髄(全身の骨の中にあります)に細い針を刺して行う検査です。局所麻酔(お子さんの年齢などによっては鎮静薬なども併用します)を使って行います。

6.ひどい出血が起きた場合にはどうしますか?

小児ITPによって、重篤な出血が起こる確率は約0.5%(200人にひとり)とされています。頭蓋内出血などは起こると命にかかわる状態になることもあるので、診断直後の血小板が少ない期間は頭などをぶつけないように配慮をお願いします。

もし重篤な出血が起こった場合、速やかにガンマグロブリンの投与・ステロイドの大量投与を行います。また、わずかでも血小板の数を増やすために血小板輸血をその直後に行うことがありまます。出血の部位や状態によっては緊急で手術を行うこともあります。

7.慢性ITPとはなんですか?

ガンマグロブリン製剤やステロイドの効果は一時的ですが、小児ITPの多くは半年以内に自然に回復しますので、ガンマグロブリン製剤やステロイドの効果がなくなっても血小板数は低下しないことがほとんどです。ですが、10-30%の割合で血小板数が再び低下してしまい、3カ月以上たっても血小板数が回復しないことがあります。3カ月以上続く場合を「持続的ITP」、12ヶ月以上続く場合を「慢性ITP」と呼びます。

ただ、ITPと診断された最初の段階では慢性ITPになるのかどうかを判断することはできません。また、治療によって慢性ITPの状態になることを予防することもできません。ですので、まずは必要性に応じてガンマグロブリンなどの治療を行い、退院後もしばらくの間外来に通院していただくことが必要です(「8. 入院/通院の期間はどれくらいですか?」も参照してください)。

慢性ITPの状態では、血小板数が低いまま経過しますが、出血の症状がない場合には治療を行わずに定期的に検査を行うのみのことが多いです。慢性ITPの状態になっても、長期間経過した後に自然に血小板数が回復することがありますが、回復が見られない場合や出血症状がある場合には治療(トロンボポエチン受容体作動薬、リツキシマブ、脾臓摘出など)を行います。

8.入院/通院の期間はどれくらいですか?

治療薬の効き具合にもよりますが、速やかに血小板数が回復すれば、数日から1週間程度で退院が可能です。血小板の回復が不十分な場合には、追加の治療が必要になりますので入院期間が伸びることがあります。

血小板の数が回復しても退院後に低下することがあるため、約半年間は定期的に外来に通院していただき、血液検査を行います。

9.ITPは繰り返すことがありますか?

ITPは一度なったら二度とかからない、というものではありません。ただ、その一方で、一度なったのでまたなりやすくなる、というものでもありません。血液検査で約半年間安定していることが確認できた場合は、これまでと変わらない生活をしていただいて構いません。