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小児の血液疾患・小児がんについて

同種造血幹細胞移植(骨髄不全・免疫不全など) について

この文書は、骨髄不全症(再生不良性貧血など)や免疫異常症(慢性肉芽腫症など)などの「非悪性疾患」に対して行う同種造血幹細胞移植の一般的な内容について説明したものです。あくまでも一般的な内容ですので、ご不明な点については担当の医師にご質問ください。

1.造血幹細胞とは

血液中の細胞成分には白血球、赤血球、血小板があります。それぞれの血液細胞成分のおおもとが「造血幹細胞」です。造血幹細胞から、それぞれの血液細胞の前段階の細胞が生み出され、最終的に赤血球や白血球、血小板などになります。また、造血幹細胞自身も分裂して増えることができます。造血幹細胞は骨髄の中にありますので、骨髄は「血液細胞を作り出す工場」の役割を果たしています。骨髄に針を刺して骨髄血を集めることで、移植に必要な造血幹細胞を得ることができます。

また、G-CSFという薬を連日使うと、骨髄にある造血幹細胞が末梢の血液の中にあふれてきます。ドナーになる方にG-CSFを4~5日投与し、成分献血と似た方法で幹細胞だけを集めることができます。

その他に、へその緒の中に残っている血液(臍帯血)の中にも造血幹細胞が豊富にあります。日本では、臍帯血バンクが指定した病院で採取された臍帯血を保管し、移植に必要な方に提供する体制が整備されています。

「骨髄移植」という言葉がよく使われていますが、必ずしも骨髄ではなく、末梢血幹細胞移植や臍帯血移植でも同様の治療が可能なことから、「造血幹細胞移植」と呼ばれます。

2.同種造血幹細胞移植の目的について

お子さんは、骨髄の働きが不十分で血液細胞が不足する状態(骨髄不全症)や、血液細胞の機能が異常で正常な免疫を発揮できない状態(免疫異常症)ですので、治癒させるために健康なドナーから採取した造血幹細胞を使って血液細胞を置き換える必要があります。同じ「ヒト」からの移植という意味で「同種」という言葉が用いられます。

3.ドナー選択について

同種造血幹細胞移植は誰からもできるわけではなく、HLAという白血球の血液型を合わせる必要があります。HLAが不一致のドナーから移植すると、生着不全や重篤なGVHDの確率があがります。きょうだいであればHLAの一致する確率は約4分の1ですが、両親とHLAが一致する確率は約30分の1です。きょうだい、両親以外はHLAが合う確率は低くなりますので、きょうだいとご両親が一致しなければ、移植のためには骨髄バンクもしくは臍帯血バンクへの登録を検討します。HLA検査は、通常の採血または口の中の粘膜を採取することで検査ができます。HLAの検査費用は移植が実施されると保険適用となり一部が返金されることがあります。

ドナーとなるには、HLAがある程度一致することに加え、健康に問題がないこと、一定以上の体重があること、などの条件もありますが、何よりもドナー本人が骨髄の提供についてよく理解し、同意することが必要です。ご家族がドナーになる場合でも、ドナーになることを暗黙のうちに強制するようなことがあってはいけません。

4.移植前処置と生着について

人の体には免疫力が備わっています。免疫力とは、「自分以外のものを異物とみなして排除する力」であり、ただドナーの造血幹細胞を患者に投与するだけでは、患者の免疫力によって排除されてしまいます。このことを生着不全(もしくは拒絶)といいます。

移植した造血幹細胞を根付かせて(生着させて)働かせるためには、この免疫力を制御することが重要です。そこで、まず「前処置」として移植前に抗がん剤や放射線照射を使用することで、患者の免疫力を抑制し、他人の細胞を受け入れられる状態にします。そのうえでドナーから採取した造血幹細胞を移植します。

一般的に、同種造血幹細胞移植は白血病やリンパ腫に対して行われることが最も多いのですが、その場合の前処置は、生着させるだけでなく、体に残っている白血病細胞などを全滅させることも目的としていますので、通常はできるだけ強い組み合わせを用います(骨髄破壊的)。ですが、骨髄不全症や免疫不全症の場合、生着させられる最小限の前処置まで弱めて行います。このことを「骨髄非破壊的移植(またはミニ移植)」と言います。最適な前処置は病気や患者さんの状態によって異なります。

ただし、適切な前処置をしても、同種造血幹細胞移植の3~8%ほどに生着不全がみられます。ドナーの造血幹細胞が拒絶された場合、骨髄非破壊的移植であれば、患者の造血が回復することもありますが、状況によっては再度の造血幹細胞移植が緊急で行われます。その場合でも、生着までは時間がかかるため、感染症などの危険性がさらに高くなり、命に危険が及ぶこともあります。

5.移植の手順について

実際に移植を行う際には、メスなどの手術道具は使いません。ドナーと患者さんの血液型(ABOの)の組み合わせによっては、採取後に骨髄血の中の赤血球を除くなどの処理をしますし、採取日に移植をしない場合は凍結保存していますので、それを溶かす手順が移植前に必要ですが、移植の手順そのものは造血幹細胞がはいった液を患者さんに点滴で投与するだけです。

投与された造血幹細胞は、患者さんの骨髄に生着し血液細胞を産生します。一般的に、移植されてから十分に血液細胞が作られるまで2~4週間かかります。

患者とドナーにABOの血液型の不一致があっても移植はできますが、移植後に行う輸血の組み合わせは複雑になります。

6.移植片対宿主病(GVHD)とは

ドナーの細胞が生着し、血液細胞が産生され始めると、ドナー細胞の免疫力が患者さんの体に対して発揮されます。この反応が「移植片対宿主病(GVHD)」です。GVHDは移植後の早い時期(100日ぐらいまでの間)にみられやすい「急性GVHD」と移植後しばらくたってから(100日以降に)起こりやすい「慢性GVHD」に大別されます(「長期の合併症について」の「慢性GVHD」もご参照ください)。

急性GVHDが起こりやすいのは、皮膚、腸管、肝臓です。皮膚には発疹(かゆみを伴うことが多いです)が少し出るものから,体全体が赤くなり水膨れができやけどのようになる場合まで様々です。腸管が攻撃されると、少量の下痢や吐き気だけのこともありますが、大量の下痢になり激しい腹痛をきたすこともあります。肝臓が攻撃されると、黄疸がみられます。

GVHDはその重症度で0~IVまで5段階に分類されます。IIIやIVなどの重症なGVHDはそれ自体が直接の合併症死亡の原因となりえますので、GVHDが重症になりすぎないように免疫抑制剤(タクロリムス、シクロスポリン、メソトレキセート)を移植の前後から使用します。また、移植前に抗胸腺グロブリン(ATG)を投与したり、移植後にシクロホスファミドを投与したりすることで、GVHDの発症率を下げられることが分かっています。ただ、このようなGVHD対策を行ってもGVHDを発症することがあります。

ただし、GVHDでは白血病やリンパ腫の細胞も攻撃を受けますので、GVHDによる治療効果があります(GVL効果といいます)。そのため、GVHDが起きた場合でも軽症であればそのまま様子を見ることがあります。重症のGVHDに移行しそうな場合には、ステロイド剤を追加で投与したり予防に使っていた免疫抑制剤を増量したりするなどの治療を行います。GVHDの治療で免疫が抑制され、感染症を誘発することもありますので、GVHDの対策は同種造血幹細胞移植のとても重要な要素の一つです。

充分なGVHD対策を行った場合、II度以上のGVHDの発症率はおよそ20~40%、III度以上のGVHDは5~15%ですが、ドナーとのHLAの一致度や細胞源の種類により異なります。

7.その他の合併症について

その他に、以下のような合併症がみられることがあります。必ず起こるものではありませんし、起こった場合も軽症ですむこともありますが、重篤になると命に関わることもあります。お子さんの移植時の状態(心臓や肝臓、腎臓の機能の状態など)にもよりますが、万全の状態でも5~15%の確率で命にかかわる合併症が起きます。多くの合併症は生着して骨髄の機能が回復することで改善しますが、合併症による機能障害が残ることがあります。合併症の起こりやすい時期によって分けて記載します。

早期にみられる合併症

感染症

造血幹細胞から白血球が作られるまでの2~3週間は重症な感染症を起こしやすくなります。また、幹細胞が生着して白血球がある程度増えた後でも、免疫の機能はまだ十分には回復していませんので、ウイルス(サイトメガロウイルス、EBウイルスなど)やカビ(カンジダ、アスペルギルス)などの病原菌によって感染症を併発することがあります。時として致命的になり得ますので、これらのウイルスやカビなどの検査や予防を行いながら移植を行います。また、移植の日(もしくは前日)から、しっかりと造血幹細胞が生着するまでの約3~4週間は無菌室で過ごしていただきます。無菌室にいる間には、食事などの制限があります。

貧血、血小板減少

造血幹細胞から赤血球や血小板が作られるまでは、貧血や血小板減少が起こりますので、一定の基準に従って輸血を行います。血小板についても、輸血を行うことによってある程度出血をコントロールすることが可能ですが、輸血を行っても血小板の増加が不十分であり、出血をきたしてしまうことが起こり得ます。

また、移植の時に使用する前処置や免疫抑制剤により血管の内側の壁がダメージを受けて、細い血管では血液がうまく流れなくなることがあります。そうすると、体のあちこちで血が固まってしまい、血小板が使われすぎてしまうことがあります。この状態を血栓性微小血管症(TMA)といいます。

肝中心静脈閉塞症 (SOS/VOD)

放射線照射や前処置の薬剤により、肝臓の中にある細かい血管(類洞)がダメージを受けて、肝臓で作られる胆汁の流れが悪くなり、肝臓の機能が落ちることがあります。胆汁が体外に排泄されないために黄疸(皮膚が黄色くなること)がみられたり、お腹の中に水(腹水)が溜まったり、あるいは重症になると肝臓の機能が不十分(肝不全)になることもあります。SOSの対策として、血液を固まりにくくする薬剤や、胆汁の流れをよくする薬剤を用いることがあります。

消化管障害

前処置で腸管の粘膜が障害を受けると、下痢になります。そのほかにも、GVHDや感染症、TMAでも下痢になるため、移植後はいろいろな理由が複合して下痢になることがしばしばあります。栄養が十分取れないことを想定して、点滴で必要な栄養素を補います。

また、口内炎やのどの痛みが起きることも多いため、必要に応じて痛み止めを使います。

腎機能障害

移植前処置に用いる薬剤の他にも、抗生物質、抗ウイルス剤、抗真菌剤、免疫抑制剤など、移植に関して用いる薬剤は、様々な程度で腎臓にダメージを与え、腎臓機能障害が起きることがあります。

膀胱炎

前処置でシクロホスファミドという薬剤を用いると、膀胱炎が起こることがあります。また、移植後のウイルス感染が原因で起こることもあります。膀胱炎がひどくなると、おしっこをする時に痛みが出るだけでなく、出血を起こしておしっこに血が混ざってしまう(血尿)ことがあります。血尿が出た場合は痛みがひどくなり、強い痛み止めが必要になることも多くあります。出血が多くて輸血が必要になることや、血が固まって尿が流れなくなることがあります。

心臓障害

移植前までに多くの輸血を受けてきた患者さんや、移植までの治療で心臓に副作用のある薬を大量に使われてきた患者さんなどに起こることがあります。患者さんの心臓が移植に耐えられるかどうか、移植を受ける前に心臓の機能については精密検査を行いますが、それでも不整脈や心機能障害を起こしてしまうことがあります。

肺の障害

移植後に感染症で肺炎が起こることもありますが、それ以外にも前処置や放射線の影響で間質性肺炎と呼ばれる肺炎が起こることがあります。これが進行すると肺の機能が低下し、酸素吸入や器械による呼吸の補助が必要となることがあります。

中枢神経(脳)の障害

移植後に、白質脳症と呼ばれる脳の障害が発生する場合があります。造血幹細胞移植の前治療だけが原因で発生することはまれですが、これまでの治療の積み重ねで発症することがあります。また、移植後に用いる免疫抑制剤やその他の薬剤により痙攣や意識障害などの脳の障害が出現することもあります。

晩期の合併症について

慢性GVHD

移植後しばらくたってからみられることが多いGVHDで、急性GVHDと少し症状が異なります。皮膚は乾燥しやすくなり、硬くなることもあります。皮膚の硬化がひどくなると、関節の動きが悪くなってしまうことがあります。また、唾液や涙などが出にくくなって、口の中や眼が乾燥しやすくなります。慢性GVHDは生活の質に大きく影響するため、ステロイド剤などで治療しますが、完全には管理できずに治療に難渋することもしばしばあります。

肺の障害

急性期だけでなく、慢性期にも肺障害が起こることがあります。前処置に使った薬剤や、慢性GVHDの影響と考えられていますが、移植後数カ月~数年で起こります。特に、閉塞性細気管支炎という状態になってしまうと、しだいに呼吸機能が低下してしまいます。ステロイド剤により進行を抑えられることがありますが、有効な治療法はまだなく、肺移植が実施されることもあります。

性腺機能障害

移植後に性腺(男性なら精巣、女性なら卵巣)の機能が低下することがあります。性腺の機能はおもに二つあり、「精子・卵子を作る」と「性腺ホルモンを産生すること」です。骨髄破壊的前処置を行うと、90%以上の方が不妊となりますし、女性では二次性徴や月経を起こすためにホルモン補充が必要になることも多いです。ただ、今回行うような骨髄非破壊的前処置では、抗がん剤の量を減らしていること、放射線照射を用いる場合でも(男児の場合は)性腺にできるだけあてないような工夫をすることで、性腺に対する影響を相対的に低く抑えることができます。

ただ、実際の性腺に対する影響は、前処置の強度や移植した年齢にもよって大きく異なります。

成長障害

骨髄破壊的前処置、特に放射線照射を多量に使って移植を受けた患者さんでは、その後の身長の伸びが悪いことがありますが、骨髄非破壊的前処置であれば影響は大きくはないと考えられます。

骨壊死

同種造血幹細胞移植では、様々な合併症の対策としてステロイド剤が使われます。ステロイド剤は骨をもろくしてしまい、骨そしょう症をきたすことや、股関節の障害(大腿骨壊死)を起こすことがあります。

脱毛

抗がん剤や放射線照射で脱毛が起きます。通常は移植後半年~1年ほどで髪の毛は生えてきますが、最初のころは少しくりくりした髪の毛のことが多いです。ただし、移植では強力な抗がん剤や放射線照射を使うため、特にブスルフェクスという薬剤を使うと、脱毛からの回復が不十分なことがあります。

二次がん

同種造血幹細胞では、放射線照射や抗がん剤を使うために、将来的に「がん」を発症する確率が5~15%ほど上がることが分かっています。そのことを「二次がん」と言います。しかし、現在、日本人の死因の中でがんはもっとも多く、抗がん剤治療を受けていない人でも約半数の方が生涯の中でがんを経験します。そのため、もし二次がんを発症した場合でも、抗がん剤治療と関係があるのか、つまり治療を受けなかったらその「がん」を発症しなかったかどうかは分かりません。

8.中心静脈カテーテルについて

移植を安全に行うためには、多くの薬を点滴で投与する必要がありますが、一般的に行うような手などに留置した点滴は、大抵の場合は3~5日ぐらいで薬が入らなくなり、そのつど点滴の針を刺しかえることが必要になります。また、移植前後は状態をこまかく把握するために、毎日採血することが必要になります。

これらの採血や点滴留置による患者の負担を減らすために、中心静脈カテーテル(CVカテーテル)を使って治療するのが一般的です。中心静脈カテーテルは、首の血管や鎖骨付近の血管を用いて管の先端を体の中心近くの血管まで届かせるものです。体の外には鎖骨の下あたりから出てくる形になります。中心静脈カテーテルは、麻酔をかけて手術室で挿入します。

治療に関連した薬はごく一部のものを除いて中心静脈カテーテルから投与することができますし、採血もカテーテルから行いますので、体に針をさす回数は格段に減らすことができます。移植が完了して体調が回復し、退院する時点で、中心静脈カテーテルを抜きます。

ただし、体に異物をいれておくことになりますので、中心静脈カテーテルにばい菌がついてしまい熱がでることがあります。その場合は原則としてカテーテルを抜く必要があります。また、抜けにくいように工夫がなされていますが、使っているうちに自然に抜けてしまうこともあります。さらに、カテーテルの先端は血液の中にありますので、治療の合間などで使わない時も、固まらないようにするためにヘパリンという薬を薄めたものを定期的に通す必要があります(外泊などの際にはご自宅で保護者の方にお願いすることになります)。ただ、そのような対策をとってもカテーテルが詰まってしまう場合があります。詰まったカテーテルはやはり抜く必要があります。

9.入院が必要な期間について

通常は、予定された移植日の1カ月ほど前に入院していただきます。移植までの期間を使って、様々な検査や診察(心エコー、CT検査、MRI検査、歯科受診や耳鼻科受診など)を受けていただき、移植の際に問題になるような臓器障害や感染症がないことを確認します。また、中心静脈カテーテルもこの期間を使って留置します。

また、移植を安全に行うためには、病棟のスタッフや環境に慣れていただくこともとても重要ですので、移植前の入院期間をある程度とることが必要です。

移植後の経過が順調であれば、通常は移植後約2か月ごろから外泊が可能になり、移植後3カ月ごろまでに退院が可能ですが、体調によって前後することがあります。

10.予防接種について

移植を行うと、それまでに予防接種もしくは罹患によって獲得した抗体は消えていってしまいますので、造血細胞移植のあとはワクチンの再接種が必要になります。移植直後は予防接種をしても免疫の獲得が弱いため、採血の結果やGVHDの症状などによって予防接種の開始時期を判断いたします。一般的には、移植から1年が経過したころから不活化ワクチン(四種混合、日本脳炎など)から開始し、移植から2年が経過したころから生ワクチン(水痘、MRワクチン、おたふくなど)を開始します。ただし、インフルエンザワクチンだけはいつでも接種していただいて構いません。

すでに移植前に公費による補助券を使われて接種された方は自費での接種になりますが、自治体によっては再接種に対する補助を行っていることがあります。補助券の対象の年齢をすぎてしまった場合は、申請によって期限の延長が可能なことがあります。お住まいの市役所・区役所などにご相談ください。